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決してその一服を吸わないで - Never Take Another Puff


喫煙が選択できる依存症であった時


タバコはとても安かった、一箱50セント(180円)以下だったのだから。タバコはどこでも手に入った。いつでもどこでも吸いたいときに吸えた。喫煙は尊敬すべき行為だった。あなたの友人も、親類も、同僚も、上司もタバコを吸っていた、あなたの医者でさえ喫煙していた。社会的に不名誉なことでもなかったし、むしろ喫煙するあなたがタバコを深々と次々に吸い込むにつれ、洗練され、頭の切れる、タフな、開けた、さらには健康的で強壮な人だと見られていた。あなたは決してタバコに脅かされているとは感じなかった・・・あなたが知る限りタバコは安全だったのだから。あなたは決して離脱症状を感じなかったし、ニコチンの毒性を意識することもめったに無かった。いつでも吸いたい時に吸えたということは、あなたはニコチンのレベルをいつでも最適の状態に保つことができており、決して極端な状態は経験しなかった。極端な状態に直面しないということは、依存性のある物質を使うことによる報いというものも決して認識しないということである。あなたは好きだから吸っていた。その頃あなたはタバコを止めることも自在にできると思っていた。

しかし、1964年に事態は変わり始めた。公衆衛生局長の最初のレポートが発表されたのはその時である。大衆は喫煙の初期の危険情報を初めて知らされるようになった。肺がんとの因果は確実に打ち立てられ、心臓発作のリスクも明白になりつつあった。実際にレポートを読み初期の研究を理解した人達が最初の禁煙を始めた人たちだった。自分達の仲間の喫煙を減らそうとしたのは医者と歯科医だった。さらに時間が経過して何百何千の研究が行われると喫煙と早死にの関係が確実に打ち立てられた。医療分野で無い人の多くも元喫煙者の仲間入りをした。突然、喫煙という行為は知的な行為とはみなされなくなった。喫煙者は遠ざけられてはいないが、もはや喫煙行為が賞賛されることは無くなった。

沢山のアメリカ人が禁煙を試みたがうまく行かなかった。初めて彼らは自分達が喫煙を選択しているのではないと気づき始めた。既に、中毒になっているのである。医学的な理由から彼らは禁煙しなくてはいけないことを知っている、しかし中毒といかに向き合ったらよいのかを知らずに禁煙の仕方は判らない。このことに気づき喫煙者は幸せとはいえないものの、依然として喫煙を心地よいと感じていた(体の障害が出ない限りにおいて)。結局のところ喫煙者は禁断症状を避けるために定期的にタバコを吸うことができていた。彼らはもはや薬物中毒者である。

それでもニコチン中毒はその他の薬物中毒と比して大きく有利な点があった。確かにニコチンはアルコールやヘロインを含むその他薬物全てよりも多くの人を殺している。しかしタバコは合法的であり、入手可能であり、比較的社会からも受け入れられている。これらのことは中毒性の物質とって重要な属性である。なぜならば、長期間の影響は致命的であるが、短期的な効果は紛れも無く楽しいというほどでは無くとも比較的快適である。喫煙者が一服ごとに感じている快感をもたらす薬学的な効果を得るために一日40回以上も自分で処方できる、他のどんな薬物があるだろう? 中毒症状の進行に伴いより多くの摂取を必要とする時に供給できないでいるほかの物質の中毒者に比して喫煙者は常習的な禁断症状に直面することはない。

喫煙者への打撃で最大なものは受動喫煙の危険である。人口の多数派を占める非喫煙者は非寛容になってきた。職場、友人や家族の家、公共の会議場、さらには喫煙者の家庭でさえ煙が無い環境になってきていた。もはや喫煙者がニコチン禁断症状を避けるために増え続ける薬物の処方をすることができなかった。現在喫煙者は一日中タバコの吸いすぎか足りないかの状態である。彼は次にニコチンを処方できるまでの数時間、望むらくは持ちこたえるためにできるだけ沢山のニコチンを得ようと吸い過ぎに走る。何時間もの間禁煙のルールや法令のためにタバコが足りない状態になる。常習的な離脱または常習的な薬漬け状態が喫煙者にとって当たり前なのだ。

以上のことから、こんにち喫煙者はタバコによるゆっくりと進行する障害や長期的な健康被害だけを心配すればよいのではない。社会的に受け入れられず、また、それゆえに何時間も許されない、依存症を維持するため毎日毎日の大変な苦労も煩わなくてはならない。今日の喫煙者は吸いすぎと吸わないことに苦しんでいる。沢山の人に軽蔑されている。喫煙者は多くの人に哀れまれており、誰にも羨ましがられない。今日の現実の前では喫煙者の全盛時代の記憶は夢想である。喫煙の現実は拷問の人生と緩慢な死である。中毒の人生に捕まらないで下さい。決してその一服をしないように!

翻訳:西田季彦

© Joel Spitzer 1994




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Written April 2, 2007 and page format updated June 11, 2015 by John R. Polito